「一番大切なこと。」

先日、三田にある仏教伝道センターでおこなわれた座禅の会に、参加して きました。 講師は数冊の本も書いている、二人の禅僧。 この二人は共著で、ブッダが約2500年前に広めた仏教を「アップデート」 するという本も出しているので、どんなことを話してくれるのかという興味も あり、参加してみたわけです。 午前は講義、午後は実際に座禅を組むという流れでしたが、午前中の講義では 現在の日本の仏教や、近年日本でも流行っているアジアから入ってきた、 ヴィパッサナー瞑想を主体としたテーラワーダ仏教などの批判を延々として いて、結局自分たちが言っているアップデートされた仏教の中身が、全く わかりませんでした。 講義の最後には質疑応答の時間がありましたが、また私の中の悪い虫が蠢き 出して、つい以下のような意地悪な質問をしてしまいました。 「そもそもブッダが2500年前に、当時の人達に説いていた教えの  中で、もっとも大切なことは何なのでしょうか?」 この質問に対する一人の回答が、 「縁起です。」 私は質問の前に名前と職業を言っていたのですが、仏教関係者でもない 素人に対する答えを、後々中国で作られた仏教用語の「縁起」という 言葉ひとつで片付けてしまって良いものなのでしょうか? 一般の人で、この言葉を聞いて理解できる人間って、いったいどのくらい いるのでしょう? しょうがないので、私がもう一度、 「すいません、スッタニパータやダンマパダのなかで、ブッダが話して  いたような、普通の言葉で説明してください。」 と、お願いしました。(注:スッタニパータ、ダンマパダは当時ブッダが 話した説話集のようなもので、仏教最古の経典といって良いものです。 ブッダは、いつも話す相手のレベルに合わせて、いろいろな例え話を 用いながら、わかりやすく自らの言いたいことを伝えています。 マンガ「セイント☆おにいさん」で、ブッダが「サイのツノ」と書かれた Tシャツを着ていたことがありますが、スッタニパータを読むと この意味がわかります。 日本語訳は、今枝由郎氏の現代語訳がお勧めです。) 二人は何かいろいろと話していましたが、私の感想は 「二人は、一度もこういったことを考えた経験が無かったのかな。」 というものでした。 ところで、かなり前に私のブログでジェームズ・アレンの「原因と結果の法則」 という本の中から、仏教の大師と博学の男のやりとりの部分を抜粋して紹介 したことがあります。 その時は、この話が事実なのかジェームズ・アレンの創作なのかわからないと 書きましたが、その後薬師寺の前の管主の故高田 好胤(たかだ こういん)氏の 本の中に、その元ネタを発見しました。 ここで、その内容を紹介したいと思います。 中国の詩人で有名な白楽天は若いときに禅道を求め、刑州の山林で鳥巣 (ちょうか)禅師と呼ばれ、樹の上で仙人のような生活をする道林和尚を 訪ねました。 道林に会った白楽天は、さっそく 「仏教の根本の教えとは何か。」 と質問します。 道林和尚は即座に 「諸悪莫作、衆善奉行」 つまり、悪いことをするな、善いことをしなさいと答えたのでした。 あまりにも平凡な答えに白楽天はあきれて、 「そんなことは三歳の子供でも知っていることではありませんか、馬鹿に  しないでください。」 と、反発します。 そこで道林は、 「これは三歳の子供でも知っているであろうが、八十の老人でさえなかなか  出来ずにいることなのです。」 と平然と答えました。 その道林和尚の真意を知った白楽天はすっかり参ってしまい、道林和尚のもとで 修行したそうです。 道林の答えが唯一の正解だとは言いませんが、少なくとも「縁起」よりは、すっと こころの中に入ってきます。                                      白山オステオパシー院長