「オステオパシーの源流は日本?(番外編-各務文献その3)」
すっかり間が空いてしまいましたが、各務文献の「整骨新書」と二宮彦可の
「正骨範」の中身を紹介していきたいと思います。
まず「整骨新書」ですが、その前半部分は整骨術の本というよりも、完全に
解剖学書と言って良いでしょう。
附録の「各骨眞形」や「全身玲瓏圖」は文献自身による骨格写生であり、
特に各骨を描写した図は、現代の解剖学書にも匹敵するような正確さを
示しています。
また、聴覚を司る蝸牛やツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の三つの耳小骨も、
しっかりと描かれています。
これらは側頭骨の中に埋め込まれているため、実際に見るには側頭骨を
ハンマーなどで割らなければいけません。
おそらく文献は、これらの骨も実際に側頭骨を割って取り出し、実物を
見ながら書いたのだと思われます。
さすがに夜中にこっそりと、刑場から罪人の屍骸を自宅の床下に運び込み、
隠れて解剖していただけのことはあります。
例えば杉田玄白、前野良沢らが1774年(安永3年)にオランダの医学書
「ターヘルアナトミア」を訳した「解体新書」にも頭蓋骨の図が載っていますが、
文献自身が写生した「整骨新書」の頭蓋骨図の方がより詳細に描かれており、
どちらかというと、私が普段使用している「ネッター解剖学アトラス」に近い
くらいの正確さです。
一方、二宮彦可の「正骨範」では、各骨の名称、説明などは載っているものの、
体の図に関して言えば、体表から見た各部位の名称のみとなっています。
「整骨新書」には、各組織に関する詳細な説明文がありますが、今回はその中から
頭蓋骨の「縫合」に関する説明文を紹介します。
現代の代表的な解剖学書である「日本人体解剖学」や「プロメテウス解剖学アトラス」
などには各縫合の名称は載っていますが、縫合の機能については一切書かれては、
いません。
唯一「トートラ解剖学」に、わずかながら縫合に関する説明文がありましたので、まずは
こちらを紹介します。
「縫合(suture)」 トートラ解剖学より
縫合は密線維性結合組織の薄い層によって構成される線維性連結である。
そのような関節は頭蓋骨のみにみられる。前頭骨と頭頂骨間の冠状縫合が
その例である。不規則な辺縁が互いにかみ合う形になった縫合は強度が増し、
骨折しにくくなっている。縫合には可動性がないため、機能分類では
不動関節である。
上記が「トートラ解剖学」による、縫合の説明です。
「縫合には可動性がない」とありますが、まともに触診が出来るオステオパス
なら「縫合には可動性が無い」、など苦笑するしかないような記述です。
まあ、西洋医学の医師達は仙腸関節でさえ動かないと思っているのですから、
仕方ないですね。
もし仙腸関節に可動性がなかったら、人間はまともに歩けませんから!!!
では「整骨新書」の内容に戻ります。
まずは、頭蓋骨の縫合に関する説明が書かれているページの写真です。
では上記の内容を、見ていきましょう。
解説:
頭蓋骨の縫合には、六つの用途がある。
其の一
脳硬膜の頭蓋中にある縫合に付着して、脳および神経を保護する。
其の二
脳内より出る血管、神経は縫合間を通る。
其の三
脳内より出る升發氣(一種の気の流れのようなもの?)は縫合より排泄される。
其の四
外用薬を縫合に塗ると、脳内に到達する。
其の五
もし誤って頭蓋骨を損傷した時は、縫合により損傷が他の骨に及ぶことを防止する。
其の六
出産の際に、胎児の頭部を周囲より縫合に向かって圧をかけながら押し出せば、
分娩が容易になる。
さらに頭蓋穿孔法のごときは縫合に熟知していなければ、これをおこなっては
ならない。
いかがでしょうか?
「升發氣」など東洋医学的な記述、あるいは外用薬に関しては誤りと考えられそうな
記述も見られますが、全体には解剖学的にも理にかなった内容となっています。
さらに、江戸時代に「頭蓋穿孔法」と呼ばれる治療が、おこなわれていたことは驚き
です。
具体的な内容はわかりませんが、頭蓋内出血の疑いがある場合に、頭蓋に穴を
開けたりしていたのでしょうか?
上記の内容と比べると、現代の解剖学書に書かれている「縫合」に関する記述が、
いかにも貧弱に見えてしまいます。
またまた今回で終わらなかったので、さらに続きます。(番外編なのに、随分と長く
なってしまいました・・・。)
白山オステオパシー院長