「みんな大変なのね。」
当院に来ている方々の話を聞いていると、良識ある正しい大人として生きて
いくのは本当に大変なのね・・・、と感じてしまいます。
私のように、北海道の田舎で野山を駆け回っていた小学男子から、内面的には
ほとんど成長を遂げないまま、いい年のおっさんになってしまった身としては、
そういった類の話を聞いていると、それだけでも疲れてしまいます。
そのような話を聞いていると、哲学者の中島義道氏の著書である「私の嫌いな
10の人びと」の内容を思い出します。
以下は、その一部の抜粋です。
この国では結婚式、葬式、定年教授を送る会、出版記念会、新入生歓迎会など、
人が寄り集まる明るいところでは、「表現の自由」はありません。
みんな自分の不手際を謝り、みんな他人がうらやましく、みんな他人に感謝
している。
そこには細部の襞に至るまで「ほんとうのこと」を言ってはならないという鉄則が
支配している。
何より「ほんとうのこと」を語ることが好きな私にとっては、地獄絵のような
恐ろしい光景です。
まず、こうした場で交わされる社交辞令にびっしょり濡れた会話を、そして次に
架空の内心の呟きを含めたほんとうの会話を示しておきましょう。
(イ)
A 「息子が東大に落ちましてねえ」
B 「えっ!優秀なお坊ちゃんですのに。何かのまちがいじゃありませんか?」
A 「いやあ、遊んでばかりいましてねえ」
B 「じゃ、ちょっと勉強なされば、来年はきっと受かりますよ」
A 「息子が東大に落ちましてねえ」
B (そうですか、私、お宅の息子さんの受験など、全然関心ないんですが)
A 「いやあ、遊んでばかりいましてねえ」
B (そればかりではないと思いますよ。頭が悪いんじゃないんですか?
あなたも虚栄心の強い人ですねえ)
(ロ)
A 「このごろ、ぐっと老け込んだようだ」
B 「とんでもない!お肌なんかつやつやして、とってもお元気そうですよ」
A 「いまは酒が入っているからだろう。何しろ記憶力は減退するし、新しい
研究はさっぱりわからんし、もう隠居でもするしかないな」
B 「先生、何おっしゃっているんですか!もっとがんばってもらわなければ、
困りますよ」
A 「このごろ、ぐっと老け込んだようだ」
B (ほんとうですね。私もあまりの老けようにびっくりしましたよ)
A 「いまは酒が入っているからだろう。何しろ記憶力は減退するし、新しい
研究はさっぱりわからんし、もう隠居でもするしかないな」
B (それが賢い選択ですね。もうこんなところをうろうろしているのは
やめてください)
以上が中島義道氏の著書「私の嫌いな10の人びと」の内容のほんの一部です。
このあと更にいくつかの例文が続きますが、もうこのあたりで充分でしょう。
今日もこういった社交辞令にびっしょり濡れた会話が、全国各地至るところで
繰り広げられているのでしょうね。
ハァ・・・。