今回は、当時自然科学系の本としては異例のベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」の著者である生物学者 福岡伸一 青山学院大学教授の記事「PCR法が鋭敏すぎて生まれる問題」を紹介いたします。
なお福岡伸一教授はPCR法の発明者である故キャリー・マリス博士の自伝「マリス博士の奇想天外な人生」の翻訳者でもあり、PCR装置が利用され始めた1980年代後半の段階から研究に使用していた学者ですから、PCR法の知識に関しては日本でもトップクラスの一人だと思います。
参考までに福岡伸一教授の著書「生物と無生物のあいだ」から、一部抜粋いたします。
P.75
「PCRマシンが起こした革命」
それは1988年のことである。その年、私はアメリカで研究生活をスタートした。
春から夏にかけて、研究所内でも学会に出かけても、出会う研究者はことごとくすべて躁状態になって同じ三文字をうわごとのようにつぶやいていた。
PCR。
ポリメラーゼ・チェイン・リアクション(ポリメラーゼ連鎖反応)の頭文字である。
マンハッタン・イーストリバー沿いに立つ私たちの研究室研究室にも、パーキン・エルマー・シータス社から発売された真新しいPCRマシンが導入された。
一見、何の特徴もない、電子レンジほどの矩形の装置だった。
しかし、それは小さな神棚のように、研究室の一番よい場所に鎮座していた。
以上、「生物と無生物のあいだ」より一部抜粋。
なおPCR法の原理について、この記事の後半にも少し書きましたが「生物と無生物のあいだ」に分かりやすく書かれていますので、興味がある方は読んでみてください。
それでは、福岡伸一博士の記事「PCR法が鋭敏すぎて生まれる問題」です。
この記事がコロナ第一波の初期の段階で書かれていることにも注目してください。
こちらが元記事↓
今回も1ページにまとめてみました↓
感染拡大する新型コロナウイルス 福岡伸一「PCR法が鋭敏すぎて生まれる問題」
連載「福岡伸一の新・生命探検」
メディアに現れる生物科学用語を生物学者の福岡伸一が毎回一つ取り上げ、その意味や背景を解説していきます。前回に引き続き、今回も猛威を振るう新型コロナウイルスについて取り上げる。
* * *
新型コロナウイルス感染が拡大を続けている。重症化するケースもあるので油断はできないが、軽挙妄動するのは注意したい。
いうなればこれはインフルエンザ同様、ウイルス性風邪のひとつであり、新型とはいえ、未知ではなく、原因ウイルスも、そのゲノムも解明されており、検出法も確立されている既知のものだからだ。いずれワクチンも開発され(ゲノムがわかっているので、ウイルス特異的タンパク質もすぐに合成でき、それを抗原とすればよい)、数年後には「今年もインフルとコロナの予防注射をしておこうか」という具合に、ごく普通の、日常的なものになることだろう。
今回、この新型コロナウイルス感染の問題を社会的により大きくしてしまったのは、皮肉なことに、鋭敏で厳密な遺伝子検査法リアルタイムPCRにある、と言えるのではないか。
コロナウイルスは普通の光学顕微鏡では見ることができず、電子顕微鏡でしか見えない。しかし王冠に似たその姿だけでは、ごく一般的なコロナウイルスなのか、SARSコロナウイルスなのか、そのような差異は判別することができない。そこで活躍したのがリアルタイムPCRである。新型コロナウイルスはSARSコロナウイルスと遺伝子上、極めてよく似ている。つまり、両者はもともと同じウイルスで、宿主を渡り歩くうちに独自に変化したものだと考えられる。
リアルタイムPCR法は、新型コロナウイルスのゲノムにだけ特徴的な部分を選び出し、その部分の遺伝子断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅して、その増幅速度を特殊な蛍光反応で検出する。PCRは変人科学者キャリー・マリスの発明。彼はこのアイデア一つでノーベル賞を獲った(詳しくは拙訳書『マリス博士の奇想天外な人生』を)。
いまでは研究や捜査で無くてはならない重要技術である。米国のCDC(疾病コントロールセンター)はサイトにいちはやく、リアルタイムPCRに使用する遺伝子配列を複数パターン公表した。現在、検査はこの情報に準拠しているはずだ(ただし、ウイルス側の変異の速度も早いので、この点の注意も必要)。
問題は、リアルタイムPCR法が鋭敏すぎることだ。
ほんのわずかでもウイルスゲノムがあれば(理論的には一滴の鼻水サンプルの中に一個のウイルスがいれば)、それを陽性として検出してしまう。なので、ある集団に対して(症状にかかわらず)網羅的に検査をすれば必ずやかなりの程度の陽性者が発見されることになる。しかし風邪の症状が出るのは、個人個人の免疫系とウイルス増殖とのせめぎあいのバランスによる。陽性でも、全く無症状の人、ウイルスを拡散する危険がほとんどない人も多数存在するだろう。ある意味で、我々ヒトは多数のウイルス、細菌とともに共存して生きている。
「木を見て森を見ず」のたとえではないが、検査でウイルスだけを追って人を見ないと、いたずらに社会不安を煽ったり、差別や分断のレッテル貼りにつながったりしてしまうおそれがある。
○福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。
※AERAオンライン限定
再び、福岡教授の著書「生物と無生物のあいだ」より一部抜粋。
P.77
合成反応は一分程度で終わる。
これが完了するとDNAは2倍に増える。
ここでチューブは再び、100℃に加熱される。
すると、DNAはそれぞれセンス鎖とアンチセンス鎖に分かれる。
温度が下げられて、ポリメラーゼによる合成反応が行なわれる。
DNAはここで4倍になる。
まったく同じサイクルが繰り返される。
一サイクルはほんの数分である。
もとのDNAは十サイクル後には2の10乗、つまり千二十四倍に増え、二十サイクル後には百万倍、三十サイクル後には、なんと十億倍を突破する。
この間、わずか二時間足らず。
以上、「生物と無生物のあいだ」より一部抜粋。
これで記事中の、
「理論的には一滴の鼻水サンプルの中に一個のウイルスがいれば、それを陽性として検出してしまう」
の意味を理解していただけると思います。
さらに検体にコロナウイルスが一つでもあった場合、反応を何サイクル繰り返すのかにより、PCR検査結果が陽性になったり、陰性になったりするようです↓
上記記事の抜粋です(グーグル翻訳のため、一部意味が分かりにくいですが大意は理解していただけると思います。)↓
「1つの論文で」とCrowe氏は言います。
37サイクルまでに十分な蛍光が得られなかった場合、陰性と見なされます。
別の論文では、カットオフは36でした。
37〜40は「不確定」と見なされていました。
そして、あなたがその範囲に入ったら、あなたはより多くのテストをしました。
限界とは何かを説明した論文を2つだけ見たことがあります。
したがって、さまざまな病院、さまざまな州、カナダと米国、イタリアとフランスのすべてがCovidテストの異なるカットオフ感度基準を使用している可能性は十分にあります。
したがって、20で切り捨てると、誰もがネガティブ(陰性)になります。
50で切り捨てれば、みんながポジティブ(陽性)になるかもしれません。
日本のPCR検査では、何サイクル回しているかが気になるところです。
追記:
国立感染症研究所のPCR検査では「45サイクル」回しているそうです。
なお、このサイクル数はCt(Threshold Cycle)値と呼ばれます。
上記記事の一部を抜粋↓
海外では「Ct値が34以上だと感染性ウイルスを排泄しないと推測できる」という論文も発表され、実際に台湾ではCt値が35より低い場合のみを「陽性」と判定しているとの報道もある。
また、英米でのメディアでは「PCR検査で陽性とされた者のなかで、実際に感染している者は少ないのではないか」という疑念の声があがっている。
福岡伸一教授の記事(日付は2020/02/20)の最後に、
「木を見て森を見ず」のたとえではないが、検査でウイルスだけを追って人を見ないと、いたずらに社会不安を煽ったり、差別や分断のレッテル貼りにつながったりしてしまうおそれがある。
と書かれていますが、まさに福岡教授が危惧していたことが実際に起き、県で初めてのPCR陽性者となり家族全員が引っ越しを余儀なくされた人達もいます。
このような悲しい出来事が起きてしまう原因は、政府、メディア、PCR検査を拡大しようとしている医師会や学者、誰もが本当のことを言わないからです。
今現在、感染症や公衆衛生に関しては全くの門外漢にも関わらず、複数の企業グループの資金援助を受けてCovid-19専門のサイトを作成し、そのサイト内、さらには各種メディアでも「PCR検査をもっと拡大すべき」、「ワクチンさえ出来ればもう安心」と主張している、世界的に著名な日本人学者がいます。
しかし、これまで公衆衛生、PCR法などの専門家の記事を紹介してきた私には、彼が本気でそう考えているとすれば、全く理解に苦しむとしか言いようがありません。
2020/09/15追加:
請願書:PCR検査の廃止を求める。遺伝子増幅回数を40回にすると陽性になり、30回にすると85-90%は陰性になるといういい加減さを、このまま行政の強制力のある検査として続けさせて良いと思いますか?
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