「無題。」
今回は、マンリー・P・ホール著「人間 密儀の神殿」からの抜粋です。
科学は、第一原因や第一前提をその範囲外にあるものと考えることにより、自らに明確な限界を設定した。
厖大な資料が積み上げられ、年々それが増加している。
しかし驚くべきことに、人間が多くのことを知ると同時に、その知るところはいかにも少ないのである。
科学は、帝国を造りあげた。
それは人間の幸福に無限の貢献をなしたが、ほとんどそれと同じ程度において、自己滅亡の道具を人間の手に渡してしまった。
しかし、学問は今なお知恵の戸口の階段でよろめいている。
科学は、科学者自身以外についてはほとんどすべてのことを説明できる。
人間は考えるが、何によって考えるのかを知らない。
人間は憧れを持つが、何によって憧れるのかを知らない。
人間は生きているが、何によって生きているのかを知らない。
人間は地上にあるが、どこから、またどのようにしてここに来たかを知らない。
なぜ「自然」が人間をこのような状態に突き落としたのか、また地上での生涯を終えたのちどこへ行くのかを知らない。
そうであるなら、この哀れな動物の運命はなんと不幸なことか。
その学問は結局人間の知らないことがいかに多いかを明らかにするにすぎないのだ。