「オステオパスから新型コロナ感染症の治療を行なっている医療関係者の皆様への提案。」

アメリカのトランプ大統領新型コロナウイルスに感染した際に治療を行なった主治医は、ショーン・コンリーという名のオステオパシードクター(DO : Doctor of Osteopathy)でした。

 

ショーン・パトリック・コンリー

1980年生まれ。

2006年にフィラデルフィアオステオパシー医科大学オステオパシー医の学位を取得。

2018年から2021年まで大統領の医師を務めた米国海軍の将校。

コンリーはCOVID-19の大流行の間、ドナルド・トランプ大統領の医師を務めた。

 

Sean Conley - Wikipedia

 

トランプ大統領の病状について会見するショーン・コンリーDO

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胸にSean P Conley DOの文字が見えます。

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アメリカにはMDとDO、2種類の医師免許が存在します。

 

MD:メディカル・ドクター

投薬、手術などの全ての医療行為を行なうことが可能。

 

DO:ドクター・オブ・オステオパシー

MDと同等の全ての医療行為を行なうことが可能、更にオステオパシー医学に基づくOMT

(Osteopathic Manipulative Treatment:オステオパシー徒手療法)を用いて、患者を治療することが可能。

 

参考までに当院HPの内容: オステオパシーとは - -

 

OMT(Osteopathic Manipulative Treatment:オステオパシー徒手療法)の説明:

osteopathic.org

 

以下は、DC、日本の医師、MD、DOの教育課程を比較した図です。

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上図を見て分かるように、MDとDOが医師になるまでに要する年数は高校卒業から最短で11年(一般大学卒業後7年)と同じ年数です。

つまり、DOは7年の間にMDと同様の教育課程の他にオステオパシーの哲学やOMTの技術を学ばなければならず、ある意味ではDOの医師免許を取得することはMDの医師免許を取得する以上に大変なことだと言えるのではないでしょうか。

 

ここで話しは変わり、1918年から1920年にかけて世界的に大流行したH1N1亜型インフルエンザ(通称:スペインかぜ)について書きたいと思います。

スペインかぜは全世界で約5億人が感染したとされ、死亡者数は5,000万-1億人以上と言われていますが、アメリカの調査資料によると薬剤治療のみの患者と比較してオステオパシー治療を受けた患者の死亡率は大幅に低かったというデータが残っています。

  

スペインかぜ (ウィキペディアより一部抜粋)

スペインかぜ(英語: 1918 flu pandemic, Spanish Flu、スペイン語: La pandemia de gripe de 1918、gran pandemia de gripe、gripe española)は、1918年から1920年にかけ全世界的に大流行したH1N1亜型インフルエンザの通称。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によるインフルエンザ・パンデミック重度指数(PSI)においては最上位のカテゴリー5に分類される。 

全世界で5億人が感染したとされ、 別のデータでは世界人口(18億-19億)のおよそ27%とされており、 これには北極および太平洋諸国人口も含まれる。死亡者数は5,000万-1億人以上、おそらくは1億人を超えていたと推定されており、人類史上最も死者を出したパンデミックのひとつである。

現状の歴史的・疫学的データでは、その地理的起源を特定できていない。

流行源は特定できていないが、初期にスペインから感染拡大の情報がもたらされたため、この名で呼ばれている。

パンデミックが始まった1918年は第一次世界大戦中であり、世界で情報が検閲されていた中でスペインは中立国であったため戦時の情報統制下になく、感染症による被害が自由に報道されていた。

一説によると、この大流行により多くの死者が出たことで徴兵できる成人男性が減ったため、第一次世界大戦終結が早まったといわれている。

 

スペインかぜ - Wikipedia

 

 次にマイケル・クチェラD.O、ウイリアム・クチェラD.Oの著書「全身の機能障害におけるオステオパシー的解析法」より、スペインかぜに関する部分を一部抜粋して紹介します。

 

アメリカにおけるスペインかぜ患者10万人に関するSmithの調査結果(「全身の機能障害におけるオステオパシー的解析法」より) 

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上記の図に関する解説: 

当時、Smithはインフルエンザ患者10万人について調査を行ない、オステオパシー・マニュピレーション治療を受けた患者の総死亡率は0.25%、肺炎を併発した患者の死亡率は10%であると報告した。

薬物療法のみを受け、オステオパシー・マニュピレーション治療を受けなかった患者の総死亡率は5%、肺炎を併発した患者の死亡率は30~60%であった。

このような研究は科学的、効率的な現在の医療界では決して行なわれない。

しかし、この初期の調査はマニュピレーションが効率よく強力に身体固有の防御作用を支援することを示した。

薬剤とマニュピレーション治療を組み合わせて身体の恒常性をサポートすると、入院期間を10%短縮する効果があることが証明された。

肺炎に対する初期のマニュピレーション治療は次の3つの主要な目標を持つ。

すなわち、鬱滞の軽減、肺の実質組織への交感神経亢進の緩和、および胸郭の呼吸運動への機械的な障害の低減である。

この3つの目標を達成する効果的なマニュピレーション治療は肝臓の解毒作用と腎臓の排泄による老廃物の排除を促進し、病理組織の血管収縮を減少し、抗生物質の組織への有効範囲を増加し、呼吸を改善して患者を快適にすることができる。

 

以上「全身の機能障害におけるオステオパシー的解析法」より

 

 

ここでまたアメリカのトランプ大統領の主治医ショーン・コンリーDOの話に戻りますが、彼は2018年にトランプ大統領の主治医となり2021年の任期終了まで主治医を務めています。

大統領が体調を崩したときに単なる薬剤治療をするだけならば主治医がDOである必要はなく、トランプ大統領の体調に何か不具合があったときには大統領はOMT(Osteopathic Manipulative Treatment:オステオパシー徒手療法)を受けていたのではないでしょうか。

アメリカのDOであればスペインかぜの際にOMTが患者の治療に効果があったことを知っているはずですから、トランプ大統領新型コロナウイルスに感染した際には薬剤や抗体カクテルだけではなくOMT(Osteopathic Manipulative Treatment:オステオパシー徒手療法)も治療に取り入れていた可能性が高いのではないかと私は考えています。

 

前置きが長くなりましたが、ここからが今回の記事の本題です。

OMT(Osteopathic Manipulative Treatment:オステオパシー徒手療法)は通常は訓練を積んだオステオパスでなければ出来ませんが、胸郭周辺の症状に効果の高いリブ・レイジング(肋骨挙上)と呼ばれるシンプルなマニュピレーション治療は一般の人でも行なうことが出来ます。

これならば、現在病院において新型コロナウイルス感染症患者の治療にあたっている看護師等でも実行が可能でしょう。

リブ・レイジングには幾つかの方法がありますが、今回は「全身の機能障害におけるオステオパシー的解析法」と「オステオパシー総覧(下)」から2種類の方法を紹介いたします。

 

「全身の機能障害におけるオステオパシー的解析法」のリブ・レイジング法

臨床的には、幾つかのリブ・レイジング・マニュピレーション治療(肋骨挙上治療)が第1-6胸椎部位を中心に多用される。

通常、患者を背臥位にし、治療台の上部を挙上して患者が呼吸しやすいようにする。

リブ・レイジングは一度に片側だけ、あるいは同時に両側を挙げることもある。

医師は両手を脊柱の下に入れ、脊柱起立筋(ESM)の片側を4指でつかみ、その対側を母指球と小指球でつかむ。

次に医師は両手を閉じて脊柱起立筋に耐えられる程度の抑制圧迫を加える。

この筋塊をつかむと胸骨と肋骨の挙上によって、典型的なリブ・レイジング姿勢が作られる。

ESMをつかんだまま脊柱を右か左に転位し、両手と脊柱起立筋の圧力ができるだけ同等になるまで、どちらか片方の手の位置を調整する。

この状態を保持して、ESMの弛緩を待つ。

その後、ゆっくりと圧迫をゆるめる。

リブ・レイジングによって患者は楽になるだけでなく、血管運動神経と気管支運動の制御に対し交感神経を抑制することにより、肺組織への血液供給を効果的に増加させると考えられる。

 

 

オステオパシー総覧(下)」のリブ・レイジング法

肋骨挙上 ー 仰臥位(あおむけ)

患者の体位

仰臥する。

オステオパシー医師の位置

患者の傍らに立つか、または座る。

手順

1,

両手(手掌)を患者の胸郭の下に差し込み、指腹部分が肋骨角に触れるようにする。

2,

指を動かして、患者の肋骨角および胸郭の背面に確実に接触させる。

3,

肋骨角に対して牽引力を加える。

4,

牽引力を加えながら、両膝を曲げて上体を低くし、両手で患者の肋骨を持ち上げる。

5,

このようにして、次々と全ての肋骨を治療する。

6,

胸郭の反対側についても、同様に治療する。

 

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注:もし助手がいれば、2人で胸郭の両側を同時に治療することができる。その場合、胸郭の両側に加える牽引力を等しくし、かつ2人の動作を同期させなければならない。

 

オステオパシー総覧には座位によるリブ・レイジング法も載っていますが、今回は入院治療している患者を対象と考えているので、仰臥位のみを紹介しました。

 

当院に来院されている方々なら分かると思いますが、オステオパシーの施術は身体に強い力を加えることもなく穏やかな方法ですが、その効果は非常に高いものがあります。

ちなみに私が過去に施術したクライアントの最年少は生後6日、最高齢は95歳です。 

現在、新型コロナ感染症の治療をしている医療関係者の方々も、非侵襲的で安全な方法にも関わらず効果の高いオステオパシー医学に基づくアプローチを是非試していただければと思います。

また新型コロナウイルスのみに限定せず、呼吸器系等の胸郭周辺の症状には全般的に効果がありますので、様々な場面で試していただけると幸いです。

 

 

 

参考図書: 

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