「Tumor(腫瘍)」
今回は前回の記事に関連して、オステオパシーの創始者A.T.スティルの著書「Research & Practice」(1910出版)から、「Adominal and other Tumors(腹部及びその他の腫瘍)」の部分を紹介します。
今回の日本語訳は、以前に医療翻訳の専門家に私が依頼したものです。
では「Research & Practice」から、
「Adominal and other Tumors(腹部及びその他の腫瘍)」
定義 —
1. 腫脹:病的な肥大。
2. 新生物。周辺の組織構造とは無関係に存続かつ増殖し、生理学的には役に立っていない新たな組織の塊のこと。
腫瘍には、良性のものと悪性のものがある。
悪性腫瘍は組織に対し浸潤する傾向にあるが、良性腫瘍は組織を押し分けて存在し、通常は被膜に囲まれている。
悪性腫瘍の多くは近傍の腺の中で二次的に増殖する傾向にあり、全身に播種して全身的な健康状態に影響を及ぼす。
また、摘出されても再発する傾向にあることが多い。
腫瘍の起源には様々な仮説がある。
封入理論(inclusion theory)は、胚細胞が胎児に必要となる数よりも多く生じてある部分に集合して留まり、それが後に、その部分の生理学的活性や刺激を受けることで増殖・発達して腫瘍になるとする考え方である。
腫瘍の中には、遺伝性と考えられているものもある。刺激や損傷が腫瘍の原因になると考える人も多い。
生理学的活性により発達するものがある一方、それで衰弱するものもある。 — Dorland
概論 —
腫瘍とは、脂肪質、軟骨質、又は水分の多い腫れ物、小さな塊、又は異常な新生物・集積物のことである。
皮膚の内側又は身体の内部にできた異常に大きなものである。頭部、頸部、胸部、腹部、脚、腕、又は皮膚などの場所に関わらず、それは何らかの原因に対する作用の結果の一つにすぎない。
あらゆる事象には原因があるので、腫瘍という結果を単純に治療するのは賢明ではない。腫瘍をナイフや薬物を用いて除去することがあるが、その原因を取り除かない限り、他の結果が現れる可能性が高い。
したがって、オステオパシーは、ナイフやクロロフォルムなどを用いて組織や血液、又は生命を破壊してしまうのではなく、治療することを目指している。
オステオパスは、ナイフを用いずに腫瘍を縮小するよう努めるべきである。
オステオパスの治療手段は正常な神経活動やきれいな血液にすることであり、障害となっている原因をそれなりに適当な期間内に取り除けば、腫瘍は消滅に向かうことになる。
この患者をオステオパスが診ると、体内に認めるすべての不自然な新生物が調べられ、その大きさ、名称、場所、及び様子が心に留められ、検討対象となる新生物に特別な注意が払われる。これが判別されて、悪性、良性、癌、類線維腫、又は嚢腫などと呼ばれる。
審議会の解剖生理学医なら、生命の保護を理由に挙げて、外科医に対し以下のように述べるだろう。
「我々は、ナイフを用いずにこの異常な新生物を縮小できない理由を実証可能な形で提示できない者がナイフを用いて介入することについては、許容も満足もできない。
血管の収縮や拡張に関わる神経が正常な構造をつくることや正常な健康状態に戻すことを妨げられていることが、どれほど重大なことか。」
技術者がこの異常形成物又は腫瘍の絶対的な発生原因を明示できない場合には、一滴の血液を絞り出したりほんのわずかな組織を取り除くために、痛みや死という代償の下で処置を行うことになる。
また、技術者が、軽率に結論を下したり医療過誤をした場合の代償として死に至ることを理解していれば、真実を真面目に手堅く探求することになるだろうし、癌や腫脹の原因を求めて腹部を探るだろう。
その探索には賢明さや誠実さが必要となるだろうし、技術者がその異常な新生物の原因を明らかにできなければ代償として死に至ることにもなる。
このようにオステオパスが属す行政の責任者は述べるが、法的な要求ではない。
キリストのように、報酬や対価がなくともそのようにするものである。
我が国にこのような法律があれば、投機的な殺人はすぐさまなくなり、何十万もの葬式が延期され、そして、ほとんどすべての市や村の数々の戸口に掲げられる何百万ヤードもの喪章を節約できるだろう。
私としては、ナイフの不用意な使用を止めさせる法的制限を設ける時期にきていることを強調したい。
そのような疾病を生じる原因を突き止めていると実証できないにも関わらず、不運な患者やその友人から金をせしめるためだけに原因を把握していると装ったり、死のナイフを用いて人命を無駄にしてしまうような軽率な外科医は、絞首刑に処すべきであると私は強く主張したい。
そうして幾人かを殺人罪で絞首刑にしたり終身刑で州刑務所に送れば、この世界はすぐにでも外科手術に然るべき位置付けをするであろう。
外科医の功績に対して法で定められた妥当な報酬を与えることで初めて、人命に対し誠実に対処してもらえるようになるだろう。
我々が人命を尊重しない今日そして時代に生きていると考えることは恐ろしい。
私は、今こそ外科の体制を規制する法整備や法的制限を行う時であると思う。
これを前置きとして、我々は、旧式の慣習による古いやり方を改め、頭部、頸部、胸部、乳腺、及び人体のすべての器官や四肢に腫瘍を発生させる原因を探り、理解を得ることを目的として知識を得る上でオステオパスに役立つ話ができる。
私は、正常ではない状態の体液の分析には関心がない。
問題は、何が原因なのかである。
我々が下した結論が正しいと、どうしたら分かるのか。我々の言うことが真実であると、どうしたら証明できるのか。
話を進める前に指摘しておきたい。
異常な結果を生じさせた原因が分かるまでは、腹部やその器官に供給される血流及びそれに付随する神経力に対して、細心の注意を払う必要がある。
原因に確信が持てるまで検討する必要があり、それから前に進むべきである。腹部の器官の中に障害又は疾病を患っている部分があれば、腹部の組織全体にもすぐさま影響が及ぶだろう。
病因及び治療 —
刺激はすべて、何らかの原因の作用である。
そうであるとすると、腫瘍は何らかの作用の結果ではないのか?
その発生原因は何か?
なぜ、それにより刺激を生じるのか?
太陽神経叢が腹部の神経系の中心であり、横隔膜を貫いて太陽神経叢に通ずる大内蔵神経が腹部内蔵に対する栄養力全体の供給源であるとするならば、このような力や栄養の供給を阻害すると腹部のすべての器官が麻痺するのではないか?
このような抑制や阻害によって腹部器官の麻痺が引き起こされるのか?
この推論が正しいなら、腹部動脈が腹部の全器官に正常な量の血液を送り込める理由や、器官において動脈血を受入れて利用した後速やかに、老廃物を含む静脈血やリンパを静脈神経系の影響下にある静脈循環により送り返すことができず、当該器官を正常状態に維持できなくなる理由を理解できる。
また、静脈の神経が麻痺すると静脈は非活動性となり、静脈系を通じて静脈血のすべてを正常に送ることができなくなるということも分かる。
この静脈うっ血により動脈系の海綿状の膜の中に活性のある動脈血が蓄積されることで、異常な位置に異常な状態の組織の形成が始まる。
つまり、腫瘍は、活性のある動脈血がその正常な機能状態から外れたときや、器官へ送られた血液が静脈還流で戻されないときに生じる、自然発生的増殖物であると考えられる。私としては、これが腫瘍発生の理由であると思う。
我々のシステムの中で、完全に正常でなければならないものが2つある。
1つ目は、動脈と動脈神経が絶え間なく、タイムリーに十分な量の血液を運ばれなければならない。
2つ目は、静脈と静脈神経がその機能を果たし、滞留を生じさせないことである。
この2点が絶対的に要求される。
動脈を介して血液を送り込み、静脈系により静脈血やその他すべての物質を心臓に戻さなければならない。
そうでなければ、心臓からの血流、又は心臓へ戻る血流のいずれかに支障を生じた結果として腫瘍が現れるであろう。
このように考えると、なぜ腫瘍を生じるのか、なぜ静脈うっ血を生じるのかが分かる。つまり、腹部の全器官に対して機能する静脈と動脈の両方を支配、管理する太陽神経叢が部分的に麻痺することで、内蔵神経の完全なる自由が妨げられるのであろう。
オステオパスに、蒸気エンジンから送られる蒸気を遮断するとどうなるのか尋ねてみれば、その回答は「全身的な停止又は死亡」である。
カムロッドやプランジャー・ヘッドの状態を変えた場合にどのような影響が出るかを尋ねれば、心悸亢進になり得ると返答されるかもしれない。
いずれかの滑車からベルトを外せば、その部分が作動しなくなるだろう。のこぎりが心棒に適切に設置されていなければ不安定な状態になる。
つまり、詳細を知らずに、エンジンや道具が揃っていない状態で、用材をうまく切り出すことはできない。
直角定規、下げ振り、そして水準器を利用し、用材をうまく切り出すために必要な機械類のすべてのパーツを準備する。腫瘍は一つの結果である。
ベルトが外されると、その器官では神経や血液の活動は失われる。
これらは、オステオパスとしての知力がないなら器官に異常な新生物を生じた原因を理解できないので辞めた方がよいという、オステオパスに向けた助言である。
オステオパスとしての知力がない場合、これらの状態を診察した際に遮断部や異常を見つけられなければ、途方に暮れることになるだろう。
私は、夜尿症の子供や高齢者で寛骨と尾骨がともに正しい位置にある人を見たことが無い。
私は、臀部、仙骨、尾骨、腰椎、及び下部胸椎の関節が完全に正常な状態で子宮や卵巣が肥大又は腫脹した状態を見たことが無い。
臀部の関節にわずかながらでも痛みがあるときには、股関節が部分的又は完全に脱臼していることが多い。
骨盤や腹部の器官に腫脹を認める状態は、何が関係しているのだろうか。
例えば、くぎを踏んで足を貫くと、なぜ開口障害になるのだろうか。
顎と足はかなり離れていることを思い出してほしい。
我々は、臀部、尾骨、仙骨、寛骨、腰椎、又は肋骨が脱臼又は挫傷することで、子宮、腎臓、膀胱、又はその他器官に異常な刺激、麻痺、うっ血、又は二次的な増殖を生じると考えている。
これらの疾病を診る際には、自分で原因を見つけ、それが正しいと分かるまでは意見を保留するのが賢明であり、そうすることであなたの助言の価値が上がり、かつ要領を得たものになるだろう。
オステオパスにとっては、あらゆる異常が作用の結果である。
これがすべての疑問に対する回答になる。
原因を見つけられないとは言わないで欲しい。
子宮の腫瘍では、第8胸椎と尾骨の間に異常を認め、血力や神経の停滞、並びに子宮や付属器官の局所的麻痺を生じる。
また、恥骨結合の状態が悪く、仙骨や寛骨の一方又は両方が異常な状態にある。
尾骨が正常な位置よりも後方、前方、又は下方にあり、子宮に関わる仙骨神経に障害が生じた状態となっていることも多い。
また、股関節周囲の筋や靭帯が弛緩又は収縮した状態にあり、骨盤の排泄系全体について真に正常な活動が少なからず障害され、腎臓にも影響が及んでいることもある。
私としては、尾骨、寛骨、腰椎、及び下部胸椎を正すことで良好な結果が得られることから、我々は解剖学的なオステオパスがこれまでに手に入れた最も重要な真実の一つを実証したのであり、これにより肥大した子宮やその他の下腹部腫瘍の原因や治療について正しい結論を得られると確信している。
これを読むだけでも、あらためてDr.スティルの著書は全て日本語訳される必要があると感じます。
年末ジャンボが当たったら、とりあえずDr.スティルの「The Philosophy and Mechanical Principles of Osteopathy」、「Research & Practice」、そして医師向けのケイシー療法解説書である、Dr.マクギャレイの「Physician's Reference Notebook」を、オステオパシーとケイシーに理解のある翻訳家に翻訳依頼するのですが・・・。
次回は現代アメリカの名だたるオステオパシードクター達が編者となっている「オステオパシー総覧」の内容です。
Dr.スティルの著書の内容と比較してみてください。